ポン酢形式

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スワヒリのことわざ

2023-02-28: 友愛書房 (神保町)

天体好きのかれが、JAXA の一般公開日にさそってくれたときのこと。

4年前のその日、公開されていたキャンパスが2つあるうち、一方から他方へはシャトルバスがあった。それが混んでいるのをみると、自分たちは歩いて行くことにした。ところが徒歩では他方までが想定よりも遠く、さらには自分たちが途中で道に迷ってしまったのだった。

その迷い道で偶然行き当たったのが、神代植物公園というところだった。自分はその後 Voltaire の Candide を読んだことで、深大寺や京都の植物園を頻繁することになる。庭師としての寛容と修養にまつわるエピソードの様ざまを出発させたものとして、この迷い道はすべてのきっかけとなった。

2023-09-28

さて道に迷い込んだ僕らは、もとよりの予定を放棄して、通りかかった植物園を散歩するという、まったく想定していなかった旅程へと身をゆだねることにした。

しかしその選択とはどれほどただしかったことだろう、なによりもそこで一緒に見た、春の陽差しにまぶしいばかりの白い藤が、とてもきれいだった・・

☆ ☆ ☆

そんなかれが、高校3年間を経て久しぶりに話しかけてきた。そこでかれがこれからもう一年、大学入学のための勉強、とくに英語を頑張りたい、といったとき、   じゃあ、これから僕たちは一月に一回、お互いと英語でやりとりをすることにしよう、それも正岡子規秋山真之とがそれを行っていたような、母語からの距離をとって深めてゆく友情のもとで! と提案したのは僕のほうからだった。

これから記録するのは、その後ある国立大学への入学を志望したかれが、3月上旬に一度めの結果を受けとったとき、   手短にいうと、試験に受かることはできなかった。僕は大きな悲しみとともに、これまで自分を支えてくれた周りの人たちに申し訳ない気持をいだいている。しかしこの一年のあいだ継続してきた努力についての後悔はない、そしてこの経験によってこれからの人生を豊かにできることを僕はねがう、と伝えてくれたかれに宛てて自分が書いた手紙。

それといっても、これを自分が送った3週間後には、かれはくり上げというかたちでその国立大学に合格し、今ではそこで満ち足りた日々をおくっている。そこで、今夏に旅行したオランダからのお土産に僕がおねがいをしていたミッフィーとともに、かれの恋人を紹介された日を記念 memorialise するために、一通の手紙をここに記録したい。

(以下、かれ本人の諒承を得たうえでの、英語からの拙訳)


Dear ......,

お手紙を、そしてこのことを教えてくれて、どうも有難う。僕はきみと近しい人たちとともに、長いあいだの努力と積み重ねによって、去年からきみがどれほど成長してきたかをよく識っている。それについて自分がわかるすべてのことを、これからきみがどこに行こうとも、僕はとても誇りに思っているよ。

最近、スワヒリ語のことわざを読む機会があった。僕は東アフリカの知恵の数々から、抜群の格言を一つみつけた。そして僕はそれをここに掲げたい:

Kupotea njia ndiyo kujua njia.
To get lost is to know the way.
道に迷うこととはその道を知ることである。


きみは憶えているはずだ、僕らが4年前、きみからの招待で JAXA のオープンデーに行ったとき、二つのキャンパスのうち一つからもう一つまでを歩いていこうとしたところで道に迷ってしまい、そのとき偶然通りかかったのが深大寺の植物公園だったということを、そしてそこで見る春の訪れた昼下がりの光に、それはまぶしいばかりだった白い花の藤によって、まったく予定していなかった旅程のほうが自分たちにとっては楽しかったと感じられたことを。きみが招待してくれたあの日がきっかけとなったから    そしてこのことはきみに初めて伝える    僕には生涯にわたる植物と庭園への興味があり、そして今、17世紀からの歴史をもつ庭園を耕すことになった。

僕らの教訓は明らかだろう: あの日は教えてくれた、初めの目的地からは道を外れてしまったと思うときには、そこで迷ったことのせいで、自分たちがほんとうに成長できる経験から学ぼうとすることをやめてはいけない、と。

道に迷ったとき、美しく発見に値するものをみつけられること、それはきみが恵まれ、きみに最もふさわしい贈物であると僕は思う。だからきみは今こそ自信をもつべきだ、目指していた場所からは道に迷いこんだ今、この迷い道でこそ、きっと美しいものをみつけだすことができると信じて。

スワヒリの旅人としてのかれと友情を分け持つことができたことを、僕は自身の10代を決するにあたり、最上のよろこびとして記憶しつづける。

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Good-bye.